カテゴリ:★海岸&川の陶片とは何か①( 1 )


2007年 04月 26日

海岸と川の陶片とは何か①

陶片海岸
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                           似島・長浜海岸

 海岸の中には、浜辺に散乱するゴミの中に占める陶片の割合が、あきらかに他の海岸よりも高い場所があります。時には浜のゴミの大部分が陶片という海岸もあります。私はこのような場所を陶片海岸と呼んでいます。広島の海岸の場合、陶片海岸はそんなに広い範囲ではなく、規模が大きな場合でもせいぜい100~200メートル程度、あるいは宮島のようにその程度の場所が幾つか集まったものです。実際には海岸の隅に陶片が幾つも集中して出てくる場所があるという、陶片ポイントとでも言った方が良さそうな場所も多いです。川の中にも、干潮時川床が現れる河口付近や、岸の近く、或いは小さな浅い流れの中からたくさんの陶片が拾える場合があります。私は陶片川と呼んでいます。
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                          海田町・瀬野川河口
                           
 これらの陶片の多くは、新しそうに見えても最近捨てられたものではなく、少なくとも数十年以上はたっている場合が多く、たくさん陶片が出ていれば、明治、大正時代のものなら、ほぼ確実に混じっていると言ってもよいくらいです。また陶片海岸と言うほど陶片が出てこない海岸や川からも、拾ってみたら古いものが混じっている可能性はとても高いようです。

陶片はなぜ出てくるのか

 陶片はなぜ海岸や川から出てくるのでしょうか。私がよく歩き回った広島の場合を中心に考えて見ます。そもそも陶片が出てくる理由としては、以下の5つの理由が考えられそうです。

 1.遺跡からの流出
 2.陶磁器の流通過程での流出
 3.生活ゴミの堆積
 4.大量投棄された陶片
 5.埋立の土に混じっていたもの

 このうち、1.遺跡からの流出とは、海岸や川の近くに遺跡があり、雨などで遺物が流れ出してくるケースです。しかし広島は窯業産地ではありませんので、窯跡からの陶片はあまり考えられません。※1 遺跡も、無いとは言えないでしょうが、出てくる陶片の大部分を占める近代陶片の理由ではなさそうです。

 2.陶磁器の流通過程での流出とは、沈没船の積荷と、船から捨てられた荷のことです。福岡の玄界灘周辺は海の難所で、海底に沈没船も多いらしく、その昔、伊万里港から陶磁器を満載して消費地に向かった千石船の積荷が大量に海岸に打ちあがります。事故で沈んだ陶磁器なので、時には完品のまま漂着することも珍しくないようです。当時の日本全体の陶磁器需要を反映しているわけですから、その量も桁違いで、長年にわたり収集研究している方もおられます。しかし海の穏かな広島の場合、2.のケースは、沈没船の積荷よりも、主として港や川の荷揚げ場所で、破損した陶磁器が捨てられた場合が中心ではないかと思います。※2 鞆の雁木下に堆積している陶片の中にはそんな陶片も混じっているかもしれません。

 3.生活ゴミの堆積とは、海岸や川に捨てられた陶磁器が長い間に干潟に堆積したり、河岸に堆積したものが流れ出たりしたものです。広島では不燃物の回収システムなどのない昔、割れた陶器の破片などは海岸に捨てられていました。※3 ただし、どこにでも投げ捨てたわけではなく、その地域での暗黙の了解程度のゴミ捨て場があり、たいていはそこに捨てられることが多かったようです。大崎下島の御手洗では、実際に地元の方から、埋立前に割れた茶碗などを投げ捨てていた場所について聞くことができましたし、私の母の記憶でも、今は埋め立てられた広島市安芸区矢野町の海岸に、茶碗などが集中して捨てられていた場所があったそうです。 実際に私が拾った海岸でも、陶片は一箇所に集中して出る傾向があり、アサリの掘れる干潟の隅の小石がゴロゴロしているような場所などに多いのです。一箇所に折り重なるようにして出てくる陶片は、宮島のように昔から賑わった場所では、他の海岸よりも古いものが出てきますし、戦時中に軍の施設のあった似島の海岸では、やはりその時代のものが多いようです。そんな陶片の出方を見ても、その地域に住んでいた人達が代々捨ててきたゴミの堆積であることを思わせます。地域から出た生活ゴミの堆積であるため、陶片はその地域の、その時代の生活水準、経済力を越えないものとなり、出てくるものの大部分は、飯茶碗や小皿など、生活に不可欠な雑器です。また元々捨てられた不燃物ゴミですから、完形品はほとんどありません。広島の陶片海岸の多くは、他の要素と絡みながらも、この生活ゴミの堆積ではないかと思っています。

 また陶片は河口付近に集中して出る場合もあり、これは川から流れてきたものと、河口に直接捨てられたものが長い間に堆積した結果だろうと思います。ただし、川から流れてきた陶片がすべて生活ゴミとして捨てられたものとは限らず、川のそばに遺跡でもあれば、そこから流れ出す場合もあるかもしれませんし、その川がかつて地域の物資の運搬に中心的な役割を果たしていたなら、その残滓もでてくると思います。広島市の八幡川河口に江戸後期~明治時代、19世紀のものが多いのは、大正時代頃まで、この川を使っての物資の運搬が盛んだったことに関係があるかもしれませんし、古そうな土器や須恵器っぽい陶片が出たのも、川の流域の歴史を含んでいるからかもしれません。

 4.大量投棄された陶片のある海岸は、私が知っている範囲では広島に2ヶ所あります。一つは鞆で、地場産業の保命酒の古い容器が浜一面に散乱しています。これらは皆、最近のものではなく、多くは戦前、様々な産地で作られたらしいもので、見ているだけでおもしろくて、私は鞆へ行くたびに保命酒の容器を夢中で探します。大量投棄とはいっても、長い期間にわたって捨てられたらしく、これも地元の歴史のようなもので、生活ゴミの堆積に近いものだと思っています。
 もう一つは竹原市大久野島で、現在は国民休暇村となっている美しい島ですが、戦前、ここには毒ガス工場がありました。何年も前、私が訪れた時には、北部の海岸一面に灰色や茶色の同じような形をした陶片が無数に散らばっていました。毒ガス工場関係の陶片でした。聞くところによると、戦後、進駐軍が来る前に、それらの容器は海へ捨てられたのだそうです。その漂着もありそうですが、しかし集中的に折り重なるように出ている場所がありますので、海岸にも埋めたのでは?と思ってしまいます。こちらは生活ゴミとはまったく質の違う、特殊な歴史を背景に出てくる陶片です。

 5.埋立の土に混じっていたもの。これは海岸陶片の素性を最も判りにくくする要素です。埋立地の海岸や人工海岸では、あまり陶片が拾えないことが多いようですが、それでも探してみれば、小さな破片を見つけることができます。これらの陶片はその海岸周辺から漂着したものかもしれませんが、埋立の土の中に混じっていた可能性も高そうです。また海岸の一部に外部の砂を入れている場合も多く、この場合も出てきた陶片は、その海岸由来のものではないかもしれません。海岸の陶片は、遺跡から出た陶片と違い、その素性が実に不確かな部分もあります。

 陶片はなぜ海岸や川から出てくるのでしょうか。もともと波や川の流れで移動したり、潮干狩りで掘り返されたりする場所にありますので、窯跡など遺跡に眠る陶片と違い、陶磁器が人の手を離れた時の状況が保存されにくく、特に現代では埋立による土の移動ということも考えられ、一つ一つの陶片の素性は正確にはわからないと思います。しかし、幾つもの陶片海岸、陶片川を塊として捉えた時、古い歴史のある場所からは古い時代の陶片が出てきますし、物資の輸送の中心だった川からは、その時代のものがたくさん出ます。軍の施設があれば、軍隊に関係した陶片が出ます。掘り返されたり、移動したり、外から持ち込まれたり、不確かな要素は多くても、干潟も川も、生活ゴミと生きるための活動から出たゴミを長い年月堆積させて、地域の歴史をしっかりとその懐に溜め込んでいるようです。広島の海岸や川に多い堆積ゴミ系の陶片とは、何世代にもわたる生活の記録であり、それを拾うことは、陶片というモノを通して、海岸や川に眠る過去の世界と出会うことだと思っています。泥の中から拾われた陶片は、温かく息をしていて、それを抱きしめることで、私が育った地域の過去と肌を接しているような気がします。

※1
 東広島市入野には、明治時代の窯があり、日常雑器を焼いていました。小谷焼と呼ばれ、窯跡も、失敗作を捨てた場所「物原」もあります。近くの川あたりに、ひょっとしたら、ここの窯由来の陶片があるかもしれませんが、これはよくわかりません。

※2
 鞆の沖で沈没した、坂本竜馬の海援隊の船「いろは丸」の遺物が海底調査で引き揚げられています。昔から商品輸送のための幹線道路のようだった瀬戸内海ですから、船の数も多く、海難事故はけっこうあったそうです。海底には沈んでいる沈没船の積荷もあるかもしれません。重たい陶磁器が海底から打ち寄せるには穏か過ぎる海ではないかと思いますが、漂着する可能性がまったく無いわけではなさそうです。

※3
 広島では、干潟で一度見かけた陶片が、拾わなければ2ヶ月でも3ヶ月でも、そのままほぼ同じ場所にあることは珍しくありません。そんな海岸ではゴミ捨て場も存在できるでしょうけど、これが太平洋や日本海側だとどうなのか。海が荒れたら、何メートルもモノが移動しそうな場所では、そもそも一定の場所に捨てるということができるのかどうか。県外の海岸にも、どうやら生活ゴミ系の堆積を思わせる陶片海岸はあるようですが、日本全体ではどうなのか、ちょっと疑問に思っています。
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by 10henkutsu | 2007-04-26 08:50 | ★海岸&川の陶片とは何か①